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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(し)115号 決定 1984年11月20日

申立人

○  ○○

右の者に対する器物損壊、公務執行妨害、傷害被疑事件について、昭和五九年一〇月一七日広島地方裁判所呉支部が勾留取消請求却下決定に対するものとしてした準抗告棄却決定に対し、申立人から特別抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

原決定を取り消す。

本件準抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、憲法三二条、三四条違反をいうが、原決定のいかなる点がいかなる理由により憲法の右各条に違反するかを示していないから、刑訴法四三三条所定の抗告理由にあたらない。なお、同条所定の期間経過後提出に係る「抗告趣意書」は判断の対象としない(最高裁昭和三四年(し)第一四号同年四月一三日第三小法廷決定・刑集一三巻四号四四八頁参照)。

しかしながら、職権で調査すると、記録によれば、呉簡易裁判所裁判官は、申立人に対する器物損壊、公務執行妨害、傷害被疑事件について、昭和五九年一〇月六日勾留の、同月一二日勾留取消請求却下の各裁判をしたところ、同月一四日申立人から本件準抗告申立(昭和五九年(む)第七〇号)があり、この準抗告申立は、右勾留の裁判に対してされたものであるのに、原裁判所は、この申立を右勾留取消請求却下の裁判に対してされたと誤解して同月一七日これを棄却したことが明らかである(なお、同日右勾留取消請求却下の裁判に対し申立人は別個に準抗告申立(同年(む)第七二号)をしているが、これについてはなんらの裁判もされていない。)。したがつて、原決定には、不服申立の対象とされていない裁判に対して判断した違法があり、これを取り消さなければ著しく正義に反すると認められるので、刑訴法四一一条一号を準用して原決定を取り消すこととし、同法四三四条、四二六条二項により更に裁判をすると、申立人は同月二五日勾留のまま同一事実により起訴されていることが記録上明らかであり、起訴前の勾留の裁判に対する準抗告申立の利益は、起訴後は失われると解するのが相当であるから、本件準抗告は、同法四三二条、四二六条一項により棄却を免れない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(和田誠一 谷口正孝 角田禮次郎 矢口洪一)

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